「なぁ……」


風が、頬をかすめた。


振り向いたトーコにも容赦なく、その風は吹き抜けて、彼女の髪を揺らす。


夕日色の瞳に見つめられると、何も言葉なんて出てこない。


俺は……いつだって、何も言えなかった。


他の女にはクソ寒い科白を、呆れるほど言えるってーのに、トーコ……お前にだけは、言えなかった。


そうやって、ズルさだけを覚えて、お前に泣き顔ばかりさせていた。


それでも、成長しているようで……少しずつでもいいから、素直にならなくちゃって、思えるようになった。