「智也くんは好きな人いないの?こんな私の提案を実行してくれるなんて…」


リエさんが俺を覗きこみながら、問うた。


俺は一瞬、視線をそらし薄く笑いながら空を見上げた。


月を見つめ、トーコを想う。


「いいんすよ、リエさんはそういうこと気にしなくて」


俺が、誰を抱こうともトーコは何も感じないだろう。


寂しさを紛らす為に、俺は好きでもない女を抱く。


「リエさん、俺って……最低なヤツかな」


トーコを想うとき、俺の胸は疼く。


苦しくなる。


きっと、今の想いは顔に出ているのだろう。

リエさんは、叶さんに見つからないように俺の手をそっと握った。


「少なくとも……私にとって智也くんはいい人だよ」


次の瞬間、俺は目を見開いた。


リエさんの唇が俺の唇に重なったからだ。


「いつもありがとう」

リエさんはそう一言呟き、俺の元から足早に去る。


トーコにも叶さんにも秘密だ。


こんな俺……生きてる価値あんのか?


いっそ、このまま堕ちるとこまで堕ちてしまいたい。


なぁ、トーコ。


俺、どこまで汚くなりゃいいんだろ?