ここから夜間診療のある総合病院までは自転車で二、三分の距離。


「智也、しっかり捕まってて」


トーコは言いながら、俺の腕を強引にグイッと引き寄せた。


しっかり捕まってと言われてもーー感覚がねぇ。

トーコの背中にもたれ、手を腰に絡ませながら、指を数本動かすが、思うように動かない。


唇は青ざめて、紫色に変色していた。


トーコは俺の手をさすり、自転車をこぎながら温めようと試みる。


「智也!!お願いだから気をしっかりもって!!寝ちゃダメだからね!!」


トーコの手が触れているっていうのに、感覚がないなんて。こういうときに限って、好きな女と密着できるなんて……神様のバカヤロー


だけど鼓膜からトーコの心音が伝わる。


トクトクトク…と流れる血の音が、リズミカルに刻まれてゆき、俺の瞼を重くさせる。


とても、心地よかったんだ。


トーコの心音なんて、めったにきけるもんじゃないぞ。


ここぞとばかりにきいている内、意識がふわりとなくなった。