昨日、その手を振り払ったこと

智也は傷ついてたんだ。
智也の心を傷つけて、私……


何を思ったのか、私は智也の胸ぐらを掴みグイッと引き寄せた。


唇が触れる。


今度は智也の方が、目を丸くさせていた。


重なっていた唇をゆっくりと離す。


きっと、私の頬は真っ赤だろう。


でも、智也の悲しい顔は見たくない。


「汚くない。そう思うんなら……キスなんてしない。智也は智也でしょ」


自分でも、何をしているんだろうって疑問に思う。

驚いていた智也の顔が、微かに笑った気がした。

「ははっ……ばーか。俺なんかとキスするなんて…バカだよ」



智也の瞳に、涙が見えたように感じた。


それに気づかないフリして、私は智也の手を繋ぐ。


「学校遅れるよっ、智也」


「おわっ…ちょ、走んなよっ!つか、手ぇ離せって」


智也と走る。


私は先輩が好き。


だけど、この手も離さずにいたいと思った。