背後から、リエさんが言葉をかけた。

「ねぇ、智也くん。恋ってね、真っ正面でぶつかって行かなきゃならないときもあるんだよ」


「俺は……そんなふうにできない。トーコは……あいつは兄貴が好きなんだっ。俺と違って、優しくて純粋な兄貴を。汚ねぇ俺がトーコに触れたら……ダメなんだ」


勢いよく、リエさんの方へと振り返った。一度、リエさんを睨みつけるが、また俯いた。

「智也くんも優しいよ。純粋な気持ちで溢れてる。トーコちゃんのこと、そんなに想えるなんて、純粋な人じゃなきゃできないよ」


リエさんの言葉に、俺はゆっくりと顔を上げた。

「俺……汚くないですか?」


こらえて、こらえていた涙が一粒、俺の頬へ流れ落ちた。


「智也くんは汚くない。綺麗だよ」


その言葉が欲しかった。

ただ、それだけだった。

それだけだったのに、誰も俺を見ていてはくれなかった。



リエさんの一言が、俺を救ってくれた。


輝きなど見えぬ空が明け、光が生まれる。


行き場をなくした者に差し伸べてくれる唯一の光が……。