目深にかぶった帽子が、視界を覆っていた。


集合住宅地の中にある一角の市営住宅。

五階建ての四角い建物の二階に、リエさんは住んでいた。


エレベーターはない。


薄暗い階段をゆっくりと上がり、インターホンをならした。


夜中だというのに、リエさんの家には誰もいない。


リエさんの家族は母親のみ。


母子家庭で生活が苦しい中、女手一つで明け方まで飲食店で働き、彼女を養っているのだ。