楓は自分の言いたいことだけを伝え、背を向ける。

「帰るのか?」

「君達の痴話喧嘩は耳障りなんでね」

気まずい空気の中、小さく玄関の音がした。

「言わなければならない事ねえ」

楓のおかげで気付いたけど、他人に言われてからなんて嫌々言っているようだ。

刹那は今にも飛び出そうとせんばかりの勢い。

自分が責めるだけ責めて目の前の物事から逃げ出そうとするのは、刹那の悪い癖だ。

ガラスのハートなんて可愛い物を持っているとは思えんがな。

「わかったから、泣きそうな面は止めろ」

「もう知らん」

刹那が涙声で落とした土鍋を片付けていく。

俺が手伝おうと座り込む。

「触らんでええ。ボク一人でやる」

手を振って現場に近づけさせようとしない。

「悪かったよ」

「どうせ、楓に言われたから、言ってるだけなんやろ。謝っても信じられへん」

徐々に片付けていく。

全部片付ける前に何か言わなければ、もっと溝が深くなってしまいそうだ。

「正直な感想を言えばお前の料理には度肝を抜かされた。あまりの出来事で少し混乱しちまったんだよ」

刹那は無言のままだ。

「お前が自分から動いてくれた事実が頭の中から抜けちまった。本当は感謝しなけりゃならなかったんだ。ありがとうな」

「ふん」

「今度は二人で作ろうぜ。俺もめちゃくちゃ出来るってわけじゃねえけど、料理の本見ながら頑張ろうぜ」

創作料理を作らせるよりは、少しでもいいから何かに従って欲しいものだ。

「こんなん、美味くならへんと思ってるくせに」

「速いか遅いかは別にして、お前だって人間なんだからやれば成長するって」

刹那の片付ける速度が遅くなっているという事は、考えているみたいだ。

全く、これで我を通してくるってんなら、どうしようもねえな。