スプーンで掬われた魔界飯を一口含んでみる。

「う、おあ、ヘギャ」

口の中が切り刻まれて、スラッシャーズされている。

「どない?おいしい?」

期待の眼差しを向けているが、結果など解っていただろうが。

口を開けることが出来ないほどに、残酷な料理だ。

苦悶の表情を浮かべながら、無言で刹那の柔らか頬を両側から押す。

無理矢理口を開かせた後、魔界汁を乗せたスプーンを口に突っ込んだ。

「うきゅ!」

一瞬、刹那の瞳孔が開く。

自分の料理によって生まれた衝撃に土鍋を落として、汁が俺の足にかかる。

「あっちちちちち!」

口の中が痛い、足も熱い。

災厄が一気に降りかかってきたとしか思えない。

魔界汁によって、完全に足を火傷しただろう。

刹那は運良く口の中だけ重傷で済んだみたいだ。

二人して悶えてしばらくしてから、口が喋られるくらいまで回復してきた。

「お前!料理と見せかけて、毒で俺を殺す気か!」

「う、ウチやって必死に作ったんやからな!」

「必死に作ったからって許される物と許されない物があるだろうが!自分の舌の基準も満たしてねえのに持ってくんなよ!」

ちゃんと注意しておかなければ変な自信を持って、また地獄料理を作られてもたまったものじゃない。

「恭耶に、喜んでもらえると、思って、作ったんやもん」

しょんぼりしているが、刹那自身のためにも釘を刺す。

「厚意の押し付けで誰もが喜ぶと思うんじゃねえ」

火傷している足を洗おうと洗面所に向おうとしたところで楓が前に立っている。

「全く、君という人間は駄目なところだらけだな」

やはり、五月蝿くて寝られないらしい。

「楓は食ってないから余裕でいられるんだよ」

「余裕だとかの問題じゃない。例え辛い事があったとしても、相手を後ろ向きにさせるような言動は人間として言ってはならない」

「あのな、何でもやんわり言う事が優しさじゃねえよ」

「違うな、君はもっと言わなければならないことを忘れている」