これは、俺の予想の斜め上を過ぎ去っている。

土鍋の中には煮えたぎる黒い汁。

その中に魚の目が浮いている。

他にも、蛙の足が浮いていたり、雑草のような草が浮いていたり。

これはどこの民族の食べ物なのか?

いや、人間という種族の食べ物ではない。

悪魔のために魔女が作った料理なのだろう。

放送コードを逸脱した料理を作るなんて、恐ろしい奴だ。

もしかして、これはあれか?

仲直りしたと見せかけておいて、暗殺を謀っていたのか?

とんでもない悪党だ。

「一つ聞いておかなければならない事がある」

「何々?」

「毒見したか?」

「毒見なんて酷い言い方やな」

酷いのはお前の視覚と脳内構造だ。

「ボクな、恭耶に一番に食べてほしかってん」

「上手い物を食べさせたいっていう気持ちがあるのなら、まずお前が食え」

「僕の料理、食べるの嫌なん?」

「嫌とか言ってない。お前が食って安全なら、嫌というほど食ってやる」

「ほんまは嫌なんやろ?ボクの事、気に入らんから、食べたくないんやろ?」

こいつ、究極のアホか?

何て思い込みの強い奴なんだ。

ネガティブが悪いとは言いがたいが、ネガティブを悪用しているとしかいえない。

「く」

食えば、本当に死ぬかもしれない。

だが、一口、一口だけ我慢すれば、刹那の気も晴れるだろう。

「解った。まずは、一口だけ味見させろ」

「味見といわず、全部食べてええよ」

「美味しかったら、独り占めするのも悪いからな」

これで、刹那との相打ちを狙えるはずだ。