「禍々しさが増したな」

「どうでもいい話だ。邪魔をするのならお前を地面に叩き伏せる」

「粗暴なところも変わっていない」

「どうでもいい話だと言ったはずだ。二度も言わせるな」

「刹那以外に興味はないらしい、な」

楓は大きな一歩を前に出し、アゴを打ち上げるように掌底を放つ。

達人の域に達している動きだが、一歩下がる動きのみで避ける。

「ふ!」

連続で顔狙いの後ろ回し蹴りを放つ。

仮面の男は背を多少反って避けると、重心を低く置いて構える。

「お前が思考を読もうとも、お前と俺との距離は開いている」

楓は仮面の男の思考を読めない。

暗黒が移るだけで、読んだところで無駄だった。

「五射穿孔」

間合いを詰めるかのような一歩。

踏み出した一歩はアスファルトを砕き地面に埋まる。

だが、構わずに仮面の男は突きを放った。

常人には一発にしか見えなかったかもしれない。

だが、仮面の男が放った名前のように、五発打ち放たされていた。

楓は三発は受け止めることが出来た。

しかし、それが仮面の男と楓との差だったのかもしれない。

残り二発、胸と腹に拳がめり込み、後方へ滑っていくように下がる。

「が」

楓が如何に強くても、仮面の男の二発は大きかった。

耐え切れず、その場に膝をつく。

「お前を殴ったところで虚無なのだ。何も生まれはしない」

男の声は悲しみさえ篭っているように聞こえてくる。

「悟りを開きたければ山にでも篭ればいい。刹那が良い迷惑だ」

立ち上がろうとするが、足の動く気配がない。

ダメージの大きさは計り知れないようだった。

「自分の体の事すらわからないか。悲しい女だ」

「哀れみを向けるのは自分だけにしておいて欲しいな」