刹那は恭耶の傍に寄り添い、仮面の男を睨みつける。

「あんた、何やねん!」

仮面の男は答えようとはしない。

仮面の男は中国人の武道家が着ているような紺色の服を着込んでいる。

「恭耶に何の恨みがあるんや!」

「お前はその男と一緒にいると不幸になる」

発したのは敵意や敬愛などなく、感情の篭っていない声だ。

「あんたに何が解るねん!」

刹那の内包した怒りは、体から染み出ている。

「全て解っている」

仮面の男は静かに、刹那に近づく。

「こんといて!」

刹那は恭耶を置いていくわけにもいかず、その場から動けない。

「刹那、一緒に来い」

「何で何も知らんような奴と一緒にいかなあかんねん!一人でどっか行けばええやんか!」

「俺は、お前の事を」

「すまないが、知り合いには手を出さないでもらいたい」

仮面の男が刹那に手を伸ばそうとしたところで、女の声が割り込んだ。

ボサボサの赤毛を後ろで束ね、白衣を着た女が電灯の下に現れる。

「楓!恭耶が!恭耶がああ!」

刹那は涙を流して楓に訴える。

「随分とやられたようだ」

恭耶を一瞥した後、仮面の男を凝視する。

「何が目的だ?」

「男の強さの確認と女の不幸の回避だ」

「ほう、まるで先が解っているような言い方だ」

二人の間には殺伐とした空気が流れるが、構えようとはしない。

「しかし、再び相見えるとはね」

どこか懐かしむような笑みを浮かべるが、瞳には敵意が篭っている。

「お前は何も変わっていないな、楓」

「こちとら教師業が忙しいんでね。あなたと違って、いつも修行してる暇はないんだ」