「これを持ってるとね、誰もが幸せになれるんだよ」

「お嬢さんは人形を持ってて幸せかい?」

誰にも口を開く事のなかった夫は、少女に問いかける。

「うん、お父さんもお母さんも笑顔でいてくれるから幸せ!」

不思議と少女の言ってることを信じる事が出来た。

「ボクの宝物だけどあげる!」

突然、少女は幸せの象徴であるクマの人形を夫に差し出した。

「いいのかい?お嬢さんの大切なものなんだろう?」

「うん。でも、世界の皆が幸せになれば、笑顔の絶えない世界になるから」

夫は胸を打たれた。

少女は妻ではないが、妻のようにしか思えなかった。

それが、心に癒しをもたらし、救いになったのかもしれない。

「ありがたくもらうよ、お嬢さん」

「うん!これでおじさんも幸せになれるね」

夫の微笑みが嬉しかったのか、少女も笑顔になる。

「ああ、おじさんはとても幸せだ」

「よかった!じゃあ、ボク帰るね!」

少女は名前を告げることなく、帰っていった。

その後、少女は二度と姿を現さなかった。

だが、夫は一からやり直そうと決意することとなったのだ。

ここで死ねば、妻からのメッセージを無駄にすることとなる。

本当かどうかは定かではないが、夫はそう思ったのだ。



「おしまいじゃ」

じいさんは目を閉じながら、思い出し泣きをしているようだった。

夫が爺かどうかなどどうでも良かった。

俺には人を感動させようっていうわざとらしい話にしか思えない。

もしかして、俺って荒んでいるのか?

「うう、ええ話やわあ」

隣では、爺と同じく感動に浸っている刹那がいる。

「おいおい、今ので泣けるのか?」

「恭耶は心が黒いから涙がでえへんねん。ほんま、血も涙もない男やわ」

お前の台詞のほうが邪悪だと思うぞ。

「お前なあ、おかしいと思わないのか?」

「何がよ?」

「そんな大切な物を商品として売っているんだぞ?妻の面影を背負った少女から貰ったっていうのなら、ずっと傍に置いときたいんじゃないのか?」