傷が癒えてきた頃、俺は自然と眼を覚ます。

「ふぁあ」

寝足りないわけでもないが勝手にあくびが出てしまう。

「くう、いてえ」

完全に癒えていないので、痛みが少しだけ走る。

「あいつはいつもやりすぎなんだよな」

ちょっと大人のジョークを言っただけでタコ殴りだぜ。

本当なら体罰教師と訴えてもいいところだ。

「楓め、今度は拳が届かないくらいの速さで逃げ切ってやる」

ため息をついて、ベッドから降りる。

カーテン越しに見えるのは、夕日の色。

「まさか」

カーテンを開くと、真っ赤な世界が広がっている。

時計の針は夕日になってもおかしくはない時刻、16時を指している。

学校が大きいからって、5時間も6時間も案内するわけがない。

もしかすると、先に帰っている場合もある。

俺は、約束を破ってしまったのかもしれない。

「楓の野郎!!」

無性に人のせいにしたくなったのだが、無意味だ。

呆然としている場合ではない。

約束をしているのは校門で、急げばまだいるかもしれない。

しかし、自分の中では、刹那の性格からしてないだろうと思っている。

「一応、急ぐか」

本当なら、痛む体を無理に動かす気はしない。

「刹那のために痛みを味わうとはな」

だが、遅刻しているのは自分。

すぐに他人のせいにしてしまう悪い癖がある。

でも、痛みを堪えて走っているのは刹那のためにやっているのも間違いではない。

俺は刹那の事をどう思っているのか。

考えながら、赤い校舎内を走り続けた。