「ぐえ」

形状の行方不明な物を腹に入れ、昨日とは別の気分の悪さを覚えながら帰り支度を行う。

「やっとのことで授業を受けられるのかよ」

もう何日も受けてない感覚だ。

それほどまでに、濃縮された日だったわけだ。

「そんなに私の授業を受けるのが楽しみか」

部屋の隅には楓が立っている。

もちろん、楓も帰り準備を終えているようだ。

「あのな、今回の事は、全部お前のせいじゃねえかよ」

もう二度と極悪非道の敵がいる約束は取り次ごうとは思わない。

「これで少しはいじめられずに済むじゃないか」

鷹威の血の覚醒のことを言っているのだろう。

「あのな、俺は、もしもの時以外に首を突っ込むのは勘弁なんだよ」

「君の性分だ、その台詞は嘘になるだろう」

分かったようにいいやがる。

「それより、大丈夫なのかよ?」

「牙狼の事か?」

牙狼はまた来るとか言っていた。

「今度は向こう側の土地に来るかもしれないな」

「今度はお前がどうにかしろよ。俺はもう腕をもがれるのはご免こうむるぜ」

牙狼が人間の世界で暮らし始めて、ちゃんと結婚の意志を見せるのなら俺は何も言うつもりはない。

それに、ティーナさんは寿命を使ってしまったんだ。

「ティーナさんには悪いことをしたな」

「ううん、そんな事ないよー」

赤と黒のチェック柄のワンピースを着ているティーナさんはバッグを持って、部屋に入ってくる。

「中々、こういった土地に来ることがなかったから、私にとってはいい経験になったよー」

いつもながらに明るくてポジティブで優しい。

この性格を楓の脳みそに刻んでもらいたい。

「ふう、君の脳みそには停学の二文字を刻んであげようか?」

案外本気だからこそ、恐ろしい話だ。