第七世界

「ほう、君にとって人生の休まる場所はいらないという事か」

「自覚してるんなら、少しは正すべきだと思うんだがな」

俺が何といたっところで直すとは思えない。

しかし、この男は楓のことを古くから知っているようだった。

いつからだ?

楓が『俺』と修行を始める前になるだろうな。

「皆木さんとの婚約をしたいが、今はまだ人間の世界で暮らすわけにはいかないな」

今はか。

なら、後からなら人間の世界に来れるのか。

でも、何で今はダメなのか。

吸血鬼の世界で遣り残したことがあるのか。

それとも、人間の世界を吸血鬼の世界にした後に、出てくるつもりなのか。

あくまで憶測だし、今は関係ない。

「なら、引いたらいいんじゃねえか?」

自分の持てる力を使って強引に推し進めようとはしない。

「引く以前に、本来ならば一族間、いや、私と皆木さんとの話で君の話を聞く必要はないし、決定権は君にはない」

身も蓋もない事を言い始めた。

しかし、男のいう事は確かで、俺が出る幕など微塵もない。

俺だって出来るならば係わり合いになりたくはない。

「皆木さんを連れて行くことだって出来る」

男の背後の襖が自然に開くと、ボディーガードの二人が居る。

「無理やりをしないのは、あくまで皆木さんの気持ちを私自身の手で変えたいからだ」

時間をかければ楓の気持ちは男に向くかもしれないと思っているようだ。

話に耳を傾けるだけましな部類ではあるが、それでも楓を閉塞的な世界に閉じ込めようとする時点で話にならない。

今から付き合うとして、楓となんて遠距離恋愛なんて成立しないだろ。

面倒くさがりな女なんだからな。