刹那の恐怖が膨らんでいく。

自らの内にあるのは絶望だった。

だが、希望にすがりつく自分もいる。

人生は痛みばかりではない。

刹那の希望、それが姿を現すこととなった。

「三人で一人を囲んで楽しいか?」

少し離れた場所に男が立っている。

緑の制服を着用し、緑の帽子を被っている。

帽子の影で顔が見えない。

ただ、男の手には黒い木刀が力強く握られていた。

「なんだ、お前は?」

「俺らの輪に入りたいってか?」

「何でもいいから、早く続きしようぜ」

親父達は自分の欲望を解消するために、男を相手にしない。

だが、男は親父達の行為が気に食わない。

静かに木刀を構えて呟く。

「雪・月・花!」

雪で縦に振るい、月で横に振るい、花で突きを出す。

目にも見えない三連の攻撃によって、親父達は痛みで気を失ってしまった。

「美しい」

生まれて始めてみる武の舞。

刹那は見惚れていた。

男は息を切らすことなく、刹那に背中を向けている。

「おい」

見惚れていたとこを急に呼ばれて、気分を害した。

「人が感動に浸ってるのに何よ?」

不機嫌そうに刹那は答える。

「助けてやったのに礼の一つも出来んか?」

「恩着せるためにやったんか?」

「最低限の挨拶も出来んとはな。まあ、いい。何故、こんなところにいる?」

しょうもない理由が恥ずかしくて、刹那は口に出す事が出来なかった。

「今度からは他人に頼らない生き方をするんだな」

男は何も聞けないと踏んで、遠ざかっていく。