上ではなく下。

幼稚園児ぐらいの女子が眉を逆八の字にして立っていた。

「誰が幼稚園児じゃ!アホ!」

今度はボディーに蹴りがクリーンヒット。

今日はなんてついてない一日なんだ。

二度の痛みに倒れそうになったが意識を保って、知り合いか確認を取る。

「お前、強烈すぎるぞ。それより、幼稚園児に知り合いなんていないんだが?」

「幼稚園児ちゃう言ってるやろ。まさか、本当に忘れたんか?」

幼稚園児をよく見たが、覚えがない。

家出もしてきたのだろうか?

「すまん、覚えてないみた」

今度は空気を切り裂くほどのビンタが頬を打っていた。

「アホ!もうええわ!あんたのことなんか知らん!」

幼稚園児は涙目になりながらどっかに走っていった。

チビに何発も殴られる理由がわからん。

チビには俺との記憶があるらしい。

だとすれば、過去に会ってるのかも知れない。

衝撃で家に入る事を忘れていると、入れ違いで楓が家の門の前に立っていた。

「何か用かよ?」

「少し言い忘れたことがあったんでな」

今日のことか、別の何かか。

「実はな、今日、従妹の刹那が来ることになってたんだが」

さっきのチビが刹那だったのか。

鷹威刹那(たかい せつな)。

大阪に住んでいる従妹で同い年だ。

従妹といっても最近まで会ってなかったし、言われるまで思い出せなかった。

「言うのが遅いぞ!」

「来てたのか、家の中か?」

「どっかに走って行ったよ」

自分の中の後悔が大きい。

ちゃんと話を聞いてやるべきだったかもしれない。

「夜中に見知らぬ土地を探検させたのか。君は危ないことをさせるな」

「違う、勝手に走っていったんだ」

「言い訳がましいな。理由があるなら手短に話せ。行動はそれからだ」

時間がないので要点をかいつまんで、猛スピードで説明した。