「病室にいてもつまんないし、ティーナが出て良いっていったんだよ」

「それでも、高校に入ってくるなんて事は出来ないだろうがよ」

「出来るよ。ホラ」

懐から出したのは、犬飼犬子と書いてある生徒手帳である。

「編入試験、受かったのかよ?」

「簡単だったよ。あ、恭耶は入学試験に梃子摺っちゃったの?」

「うるせえ。とにかく、どきやがれ」

俺は朝からの疲労で足に来ているのだ。

「いいよ。ほら」

半分だけケツをどけた。

「そこは俺の席だ。どけっつうの」

「私が立たなくちゃならないじゃない」

「立てばいいだろうが」

周囲の目が俺に刺さる。

「恭耶、何やその女は」

刹那が俺の傍に立っていた。

「この街に、最近住み始めた女だよ」

「女じゃなくて、女の子でしょう」

犬子が俺をにらみつける。

「自分で言う奴ほど、可愛げがねえんだよ」

「ちょっと、恭耶」

刹那が俺を引っ張って、連れて行く。

「何だよ?」

「恭耶、どこで引っ張ってきたんや?」

説明が面倒ではあるが、説明しなくても面倒なので説明するしか選択際はなかった。

「吸血鬼を信じるか信じないかはお前次第だけどよ」

「ふうん、そないか」

先ほどまで気になっていた素振りも、今では興味のない顔に変わっていた。