「皆木先生、生徒の争いに手を出さないでください」

海江田は当然のように言う。

「こいつを倒す事を楽しみにするのもいい。しかし、倒されては私が困る」

楓は嘆息して、海江田の腕を放した。

「何が困るんです?」

「秘密だよ。それより、教室に戻れ。みんなも戻りな」

楓の一言によって群れは崩れ、何事もなかったように教室へと移動していく。

「待ってください。まだ勝負はついてませんよ」

だが、海江田は諦めてはいない。

この局面で獲物を逃がすなど、海江田のプライドが許さなかった。

「いいから戻れ」

殺意が篭った言霊によって周囲の空気が凍てつく。

海江田は凄みのある殺気を肌で感じ、押されている。

「素直に退いた方がよさそうだねえ。では、僕はこの辺で」

海江田は教室に戻ろうと背を向ける。

しかし、数歩進んだところで、海江田は何かを思い出し振りかえった。

「その愚者に一つ伝えてくださいよ。学校内で出過ぎた真似をしないようにね」

「わかったから早く教室に戻れ。授業は始まってるんだ」

「くっくっく、では、また」

奇妙な笑いを上げて去っていく。

「ん?まだ残ってたのか」

解散した群れの場所に、佳那美が複雑な顔をして立っている。

「あの、鷹威君、大丈夫なんですか?」

「保健室のベットで寝かせて時間が経てば起きるだろ」

「良かった」

佳那美は安堵のため息をもらして、笑顔を作った。

「私は保健室に馬鹿を運んどくから、君は教室に戻りな」

「私も行かせてもらえないでしょうか?私のせいもありますし」

「君のせい?」

楓が訝しげな顔をして、佳那美の顔を見る。