それは、めでたくも何の面白みも無い入学式が執り行われた日のことである。

 新たなる生活の始まるを祝うには十分すぎる程に快晴であった。

 外では、朝早くから鳥が囀っていた。おれは風流であるなあとのほほんと暮らせる程にいとやさしな人間ではないので、何の鳥かはわからなかったが。

 しかし、室内だというのに暑い、暑すぎる。まだ四月も初旬であるのに、正装だとかなんだとかでスーツを着ているせいで、一瞬にして汗が噴き出すのを感じた。

 下宿先を出て、入学式会場へと向かうバスへとどうにか乗り込む。

 バスの中は、それはもうスーツを着た人々でごった返していた。

 いやはやしかし……一台のバスの中に何という人の数であろうか。

 確か、おれが入学する大学の今年の新入生の数は三千人強だとか聞いた覚えがある。だから、バスにもこれだけ沢山の人がいるのも当たり前かと考えながら、おれは鞄からウォークマンを取り出し、イヤホンを耳に装着した。

 少しだけバスに揺られていると、気分が悪くなった。

 昔から乗り物には極度に弱く、すぐに酔う性質だ。しかし、今回は乗り物の揺れが原因ではない。きっと、バスの中の臭いのせいだろう。

 そう、バスの中はおれが大嫌いな香水の匂いで溢れているのだ。もう溺れてしまいそうなくらいに、である。