歯を磨きながら洗面所を離れ、リビングと呼べばいいのか何と言うのか、寝たり食べたりする部屋(って言ってもワンルームなわけだが)に戻ってくる。

 庭に出る為の扉兼おれの部屋唯一の窓を覆う黄緑色のカーテンを開く。朝日が差し込んできて、目に沁みる。

 おれはその扉の前の、段差になった部分に腰かけて、朝日を背に記憶を整理しようと試みた。

 おれは昨日、つまり日曜日の夕方、明らかに怪しげな黒いローブの男とすれ違い、そしてケルベロスと言うべき三つの頭を持つ黒いワン公に襲われた。

 そして、おれは逃げたんだ。それはもう必死に。全速力で鴨川沿いを駆け抜けていた。

 でも、その健気な努力も虚しく……おれはもうワン公に追いつかれて喰われる寸前だった。

 だが、何故か助かった。ワン公が悲鳴とともに吹っ飛んでいったからだ。が、その直後におれも宙を舞った。で、鴨川の土手を転げ落ちて――そこから記憶が無い。

 あれは夢だったのかもしれない。何故なら、おれは今さっき目覚め、いたのはおれの家だったからだ。本当にあんなことが起こったなら、平和にこんなところで目を覚ませた筈がない。

 うん、夢だ。きっと夢だ。

 と、思いったかったのだが、全身を見てみると、所々に切り傷の痕やらかさぶたやらが出来ていた。
しかも、心なしかお腹が重い。サッカーをしていたときに、相手のシュートをみぞおちにクリーンヒットさせられた時に似た重さだ。