ふと、気付いた。

 視線を桜から視線を下ろし、前を見ると、真っ黒い服に全身を包まれた人が、こちら側へと歩いてきていた。

 なんという暑そうな格好だ。信じられない。

 まだ四月の初めだとはいえ、少しずつ夏が近近付いてきていることが感じられる今日この頃に、なんという服装だ。ファンタジィ小説なんかに出てきそうなローブを着ていて、大きなフードを顔も見えないくらい目深に被っている。靴も、先っちょが尖っている黒いもの。

 本当に、全身が黒に覆われていた。見ているだけでこちらもサウナに籠もっている気分になってくる程だ。

 しかし、この由緒正しい日本文化の本拠地ともいえるこの京都に似つかわしくない格好だ。

 まるで、どこかの世界の暗黒卿のよう。シュコー、シュコーってな感じの息が漏れる音が今にも聞こえてきそうな気さえする。

 すれ違いざま。

 顔が見えなかったその黒ローブの人は、間違い無く「本物かどうか試してやる」と小さな声でいった。笑いながら、絶対にそう言った。高い声だったが、たぶん男の声だ。

 おれは立ち止まった。黒いローブの男が言ったことを頭の中で反芻しながら、それを理解しようと努めた。

 どれくらの時間、足を止めていたのだろうか。

 背後で、何かが吠えながら駆けて来る音が聞こえた。嫌な予感がした。

 振り返った。嫌な予感っていうものは、これ、相当に高い確率で当たるものである。