そして、声を出さずに口を小さく動かした。おれには、「ジロジロ見てんじゃないわよ」と言ったように思えた。

 お、恐ろしい……鬼がいる!

 おれはすぐさま彼女から視線を外し、今度は前の方を見た。

 一番前の席に、きちんと背筋を伸ばしている、赤色のスーツに身を包んだミリちゃんがいた。髪をいじるなんてこともせず、真摯に先輩方の話を聞いているように見える。

 彼女にするなら、怖い顔で携帯を睨む変な女の子より、ちょっとドジそうだけどミリちゃんの方が断然良い。まあ、どちらであろうともおれには実現不可能な話なのだが。二人とも、顔が良すぎる。こりゃあもう、餓えた男どもが放っておくまい。

 またくだらねえこと考えてやがる――自分自身のことを蔑みながら、教室中を見渡してみた。見た感じでは、多少派手なやつもいるにはいるものの、やはり何処か全体的に大人し目な印象のやつらばっかりだった。

 そして、かなり悲しくなる観測結果が、一つ。どうやら、おれのクラスには、女子が二人しかいないらしかった。つまり、黒髪の女の子と、ミリちゃんだけだ。

 正直、これは辛い。男子校での経験によりわかったことなのだが、男だけというのはいかんせん空気がなんだかしんどい。女子がいるとかいないではなくて、男子だけというのは、なんだか息苦しい。