殆ど息も切らしていない。そのまま、怒涛の勢いで「遅れてすいません」と叫びながら、横開きの扉を開いた。そして、講義室へと入っていた。

 その開いた扉からちょっと中を覗いてみると、大きな二段式の黒板――二枚の黒板が上下にスライドする仕組みになっている――の前に、上級生らしき二人の男が立って、何か説明しているように見えた。

 何の確認も無しに、ホームルーム中の教室に突撃するとはなかなかの度胸だ。勿論、心臓がネズミよりも小さいのではないかと思うぐらいにチキンなおれにはそんなことをする勇気も無い。

 よって、講義室の後ろ側から入れる扉の方へと素直におれは向かう。

 扉の取っ手に触れようとして、おれは僅かに躊躇した。まだまだ息が上がっている。もう少し落ち着いてから入ろう。

 おれはネクタイを真っ直ぐにしてから前髪を整える。完全に勢いに任せて半年前に金メッシュを入れた部分が果てしなく痛んで毛先がそれはもう好き勝手な方向へとはねている。

 今更ではあるが汗が溢れてきて、おれは上着を脱いだ。カッターシャツの襟がきちんと折れていることを確認してから、深く一息。

 よし。入ろう。
 おれは、ゆっくりと扉を開いた。

 そしておれはすぐさま扉を反対方向にスライドさせ、講義室に入ることなく扉を閉めたのであった。「間違えました」とただ一言、呟いて。