なんという幸運。何の手掛かりもなく目的地に辿り着いたのは、生まれてこの方、初めての経験かもしれなかった。数十……いや、数百の当たり付き棒アイスでことごとく『はずれ』を引き続けてきたのは、今日というこの日の為に運を貯金しておく為だったのか!

 まあ、これは幸運なんかではなく、もっと凄いものが原因だとおれは後になって知ることになるのではあるが。

「ありがとうございます!」ミリちゃんは細くて白い左腕にした腕時計で時間を確認しながら駆け出す。「いそぎましょう、もうホームルームが始まっちゃっています」

 ミリちゃんはおれに促すと、そのままその建物の扉を開き、勢いよく廊下を走っていくキィィという音を立てながら、扉が閉まっていく。

 閉まり切る前におれも建物の中に入った。

 そして、前を行くミリちゃんを追う。

 結構、早いな。ヒールを履いているってのに、そこそこに本気でおれとの差が殆ど縮まらない。何か、スポーツをしているのだろうか。

 廊下を駆ける彼女は二つ目の角を曲がり、階段を上っていく。

 息を切らしながらおれもどうにかついていく。やっぱりツイてないな、どうして入学早々こんなに必死で走らにゃならんのだ――ああ、うん、おれが入学早々人の話をちゃんと聞いていなかったせいか。

「ここだわ」

 そう言って、彼女は急にある講義室の前で立ち止まった。