もしかして、あの少女も中二病だったのだろうか――だなんて冗談は置いておいて。

 あの少女と見つめ合っている間、とても不思議な雰囲気におれは包まれていた。雑踏の中で、少女の声だけがはっきり聞こえているというのも正直なところ理解し難いことであった。

 そして、更に。

 その直後に女の子の言葉を吐いていったあの黒髪の女子。グレイのスーツを着ていたから、たぶん新入生だとは思われる。

 だけど、そんなことはどうでも良くて。

 彼女を見た刹那、頭の中の奥深くに、大きな杭を打ち込まれたような、そんな衝撃を覚えた。

 そりゃあ、彼女が言葉を失うくらいに物凄い美人だったから、というのもある。

 いや、『くらい』ではない、本当に言葉を失った。彼女の美しさを形容しようと言葉を紡ごうとしても、きっとおれには出来なかっただろう。

 おれが知っている言葉では、形容し尽くせなかったに違いない。

 今まで見てきたどんな美人よりも美しかったのだ。

 だが、おれが覚えた衝撃というのは、その美しさに対する驚きとは別のところからきているらしかった。

 頭の中に杭を打ち込まれたと同時に、鋭い何かで頭の中身を抉り取られ、それを目の前で見せられているような感覚をすら覚えたのだ。