他愛もない会話。
それを何とか、私は長く話ができるようにと続けた。
智也君のことをいろいろ知りたい。これから一緒に暮らしていく男の子で、弟になるこ。知っていて損はない。
何よりも、何時間かかるかわからないお父さんたちの相談にかける時間を、ただ黙って待ち続けるなんて、拷問に等しい。
その時だった。
「ねえ」
智也君が、話しかけてきた。
さっきまで彼が話しかけてくれることなんてなかったから、あたしはすこし驚いた。
「あ、うん。何?」
「不安じゃないの?」
「え?」
「母さん達が、再婚するの」
「……」
その瞳には、感情らしいものは浮かんでいなかった。
「俺は、……」
「そうだね」
いい淀む声がする。
私は、それを遮った。
智也君がこちらを見る気配がする。
「私は、ちょっと不安。それに、怖いかな」
「怖い……」
「私ね、お母さん、知らないの。少なくとも、生きて、動いて、話しかけてくれたお母さんは、記憶の中にないかな」
「……」
「だからね、奈津美さんとお父さんが再婚するって聞いた時、本当に怖かったんだ。奈津美さんとどう接していいのかわからないから。
勿論、同じくらいに智也君のこともね」
ペットボトルをゆらゆら揺らす。たぷんたぷん、中身が波打つ音がする。
あたしはそれを聞きながら、
「でもね、二人ともとてもいい人だった」
「……」
「だからもう怖くはないよ。でも、ちょっと不安っていうのはあるかな。全然慣れてない家族で、これから生活するのが」
「……前の、母さんが好きじゃなかったのかっていう気には、ならないの」
「ううんあんまり。お母さんには悪いけど、私、そういうの分かんないから。お母さんがもう少し長く生きてて、あたしがお母さんのことをちゃんと記憶していたら、そういう気持にもなったかも」
「そう」
