刹那の憂い(セツナのウレい)

カタンと、音がした。

ヒデタダが、スツールの足をひっかけたらしい。

一瞬、視線があたしからそれる。

今だ。

あたしは、ドア目掛けて走った。

お願い、追いつかないで。

せめてここから出させて。

でも、外で捕まってもどうしよう。

必死でドアから転がり出ると、そこに、

刹那がいた。

「あ、いた」

刹那のほうが言った。

「ほったらかしにしちゃったから気になって。

弟君にここ、教えてもらって。

開店まで待ってようかと思ってたんだけど」

早口で言って、

あたしを背中にかばってくれる。