「遅かったね」


教室に戻ると、裕美がちょうどお弁当箱を片付けているところだった。


「うん…」


あたしはただ頷いた。


まださっきのあいつの顔が頭をちらつく。


「え?百合亜さんのアド教えたの?」


あたしが携帯を握り締めているのを見て、裕美が聞く。


「違うよ!!」


あたしは慌てて否定する。


少し汗ばんだ手から携帯を離し、ポケットに入れる。


「びっくりしたぁ~いくらあの北沢くんだからって……」


裕美がほっとしたように言う。


「え?あの人知ってるの?」


あたしが今度は食い付いて、裕美に問い掛ける。


裕美は少し戸惑いながらも答える。


「入試トップの上に、サッカー部エース候補の北沢くんでしょ?知らない人いないくらいだよ」


「そうなんだ…」


確かに目立ってたしな。


あたしが黙り込んで彼のことを考えていると、裕美があたしの顔を覗き込む。


「何かあったの?」


あたしはただ首を振るしかできなかった。