私は望まれずこの世に生を受けた。それを知ったのは6歳位のことだったと思う。
彼女は私に言った「堕胎する金がなかった、生む為に費用を作る時間しか残されていなかった、堕胎する費用を作る時間がなかった、あんたのお陰で私の人生は狂ったのよ。
それを忘れずよく覚えておきなさい。」そう私は忠実に忘れず覚えている。
私が存在しなければ彼女はもっと自由に思うように生きられたのかもしれない、悲しすぎるくらい自分や自分の子供や周りを傷つけずに済んだのかもしれない・・・でも私は彼女の意思とは別に私は存在してしまった。

彼女が私を身ごもったのは二十歳になる前だった。
彼女の話や私の祖母に当る彼女の母の話からすると、彼女の青年期は戦争の如く酷いものだったと聞く・・・
毎日、私の祖父に当る彼女の父は酒に呑まれ、女に溺れ私の祖母や彼女、彼女の兄弟に暴力を振るい働くこともせず、日々、部屋の中は嵐の後のように物が散乱していたらしい。
また、彼女の母は行く場のない怒りを彼女にぶつけ暴力を振るったと彼女は私に話した。
しかし祖母は私に彼女だけが愛しく大切に育てたと話していた。
何が真実で何が嘘なのかは判らない、ひとつ言えるのは彼女や祖母がそれぞれにどう感じていても、それはどちらも真実なのかもしれないと・・・私はそう思う。

それが例えば私自身と彼女の関係のように、互いが何かを想い会っても決して伝わることは無い・・・でもどう受け止めようとも互いが発する想いに嘘はないように・・・