カメラの手入れを終えても彼女は戻らなかった。
空腹だったことにようやく気がつく。
商店街の店はほとんど閉まっていたためコンビニで弁当を二つ買った。
本屋に立ち寄り、先日彼女に捨てられてしまったカメラの本も買った。
アパートに戻ると彼女は帰っていた。
玄関にぐたぐたに疲れたサンダルが寝転んでいた。
帰ってたのか?
弁当買ってきた、食べるか?
返事はなかった。
まだ怒っているのかな。
捨てきれない夢のかけらが時折二人の壁になっていた。
彼女は敏感にそのもどかしさを感じていたようだ。
もう迷っている場合じゃない。
やっぱりもう一度チャレンジしよう!
彼女もきっと喜んでくれるはずだ。
脱ぎ捨てられたTシャツの向こう、彼女はベッドに横になっていた。
そっとカメラを彼女に向けた。
上半身裸の彼女の背中には水着の跡がくっきり残っていた。
ファインダー越しの彼女は、ストライプのシーツの海を泳ぐ人魚のようだった。
気持ちよさそうに、優雅に泳いでいる。
ためらうことなく、シャッターを切った。
扇風機の音だけの部屋。
夏の終わりの匂いがした。