兄貴はどんな気持ちで、彼女を抱いたんだろう。
苦しめたくて?
それとも、ただ愛しくて?


後者なら、俺も兄貴と同じだ。
あんなに苦しそうな表情をする彼女に、俺は己の欲望を抑えられなかった。
彼女の『大丈夫』という言葉を武器のようにして。


凜があの決断を失敗だったと思ってしまったなら、それは俺のせいだ。
あんな悲しみの混じった微笑みをさせたのは、俺だ。

あれから、凜からの連絡はなかった。

といっても、それまでもほとんど連絡は俺からで、凜から連絡をくれることはなかった。
俺自身が凛とどう向き合えば良いかわからなくなって、他愛ないメールや電話しか出来なかったのだ。
毎週の決まり事のようにしていたデートも、何となく言い出せなかった。
凜も何も言わなかった。



それから3週間が過ぎた日曜。
俺と村西さんは、俺の家と凜たちの学校の中間地点にある駅の前の喫茶店で落ち合った。