さうす・りばてぃー

 そして、50分後。

 泥棒のように足音を立てずに部屋を出ることに成功した俺は、そのまま駅前へと向かった。

 途中、二回ほど星空から着信があったが、いずれも無視する。
 
 まさか、駅前で待ち伏せているということはあるまいな。
 
 少し遠目から、様子をうかがってみる。いつもの場所には、クリーム色のコートを着た女が一人。他に人影はない。

 よし、接近だ。

「ちは」

「五分遅刻ね」

 時計を指し示しながら、穂波が言ってきた。様子をうかがっている間に、遅れてしまったらしい。

 しかし、体の無事には代えられないというもの。軽く謝ってその場を切り抜ける。

「さて、じゃあ行きますか」

「あ、その前に、見舞い買っていこ?」

「うどんか」

 過去の経験を踏まえて俺が言うと、穂波はジト目でこちらを見た。

「病院にそんなのもっていけるわけないでしょ。今回はお花にしよ」

「菊の花か」

「ゆうくんが言うと、本当に持っていきそうだから怖いよ……」

 恐る恐る、といった感じで俺を見る穂波。失礼なやつだ。