お客さんどころか、カフェの店員さんまで動きを止めてこちらを見ている。

彼らの視線は私を通り過ぎて、男の一挙手一投足に向けられていた。

人々の視線を独占している男は、周囲などまったく意に介さない様子で、じっとこちらを眺めている。

その薄い唇が再び開かれるのを、私は声もなく見守る。

「悔しくないか?」

「え?」

 予想外の言葉に、思わず声が出た。

あっと口元を押さえた私に、男は冷たいとすら思える眼差しを向ける。

「あ……えっと、そう、ですよね。いつか捨てられるかも、とは思ってたから、覚悟はしていたつもりだった……んですけど。いざ直面すると、やっぱり悔しいというか、それ以上に惨めかも……なんて」

 視線をさ迷わせながら、しどろもどろに答えるうちに、先程までのくすぶっていた気持ちが蘇る。

悔しいとか惨めとか、そんな言葉で言い表せるものではない。

私はあんなにも軽く、ばっさりとあつし君に捨てられたのだ。

何か言う暇すら与えられず、一方的に、切り捨てられたのだ。

暗く沈みそうな心を持て余しながらも苦く笑って答えると、男は小さく口端を上げた。

「なあ、そのシャツ、俺に譲って」

 センスないとあつし君に切り捨てられた挙句、生ゴミに塗れたシャツを、男は指差した。

「でも、これ……」

「彼氏のために選んだ服だから譲れない?」

「えっ、いえ、そうじゃなくて。これ、汚いし、ダサいみたいだから……」