「すみません。ありがとうございます」

 パウダールームは白や茶色といった落ち着きのある色で囲まれ、居心地の良い空間だ。

店内とはまた違った雰囲気があり、知らない場所だからか緊張していた気持ちがほろりと和らいだ。

「いいのよ。……これも、よかったら使って?」

 いつから持っていたのか、和風美人はピンクのポーチをするりと差し出す。

えっと声を上げた私ににこりと笑うと、小さなポーチを素早く洗面所の脇に置いて、和風美人は扉を閉めた。

ポーチの存在を不思議に思いながらも、早速手を洗おうと鏡の前に立った私は、そこで今日家を出てから初めて自分の顔を見た。

「あ……」

 ひどい顔だった。

泣いた跡がはっきりとわかるし、メイクはもうぐちゃぐちゃだ。

アイラインは黒く滲み、マスカラも剥がれてちらほら顔にくっついている。

汗でファンデーションはほとんど落ちているし、ルージュで彩っていたはずの唇はくすんだ色に戻り、コンシーラーで必死に隠したニキビも浮き上がっていた。

すばやく手を洗ってポーチを開けてみると、やはり化粧品が詰め込まれている。

「どん底の状態から一気に引き上げられてここまで来ちゃったから、泣いたことすら忘れてたなぁ」

 しばらく呆然と自分の顔を眺めていたが、次第に笑いが込み上げてくる。

一時的に忘れていた怒りがじわじわと湧き上がってきた。

ひどい顔だ。

なんてブス。

なんてバカ女。

こんな顔を晒して私は街中を歩いていたのだ。

しかもあんな目立つ男を連れて!