「こんな扱いを受けて、悔しくないのか? このまま黙って受け入れるのか?」

「でも……」

 私なんか、と言おうとしたら、額にこつんと拳骨が落ちてきた。

「俺が手を貸してやる。報酬は先払いで、そのシャツね。今すぐ着られる状況じゃないから……クリーニング代も追加しようか」

 ほら、と手を差し出され、未だ座り込んでいた私は慌てて立ち上がった。

立ってみて初めて、男の身長に気づく。

高い。

あつし君よりもさらに高い。

180は余裕で超えているだろう。

こんなにもしっかりと誰かを見上げたのは、初めてかもしれない。

そして驚くべきは、彼の均整のとれた体格だ。

彼の存在感を際立たせる理由の一つと言えるであろう、抜群のスタイル。

こんなにも足が長く、細身でありながら脆弱さを感じさせない美しい身体が、この世に存在するものなのか。

もはや存在そのものが芸術作品のようである。

男が着ているというだけで、何気ないTシャツやジーンズが、彼のために創り出されたものと錯覚してしまいそうだ。

「で、どうする?」

 男にまたもや見惚れそうになっていた私は、思わずその言葉に頷いていた。

彼にはどこか人を従わせる力がある。

でもそれは嫌な感覚ではなかった。

先程までの惨めな気持ちは跡形もなく消え去り、何かが始まりそうな妙な予感に包まれる。

「じゃあ、契約成立」

 目の前に拳を付き出され、おずおずとそれに自分の拳をぶつけると、男はくしゃりと目を細めて笑った。





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