もしかしてここに? そう思ってドアノブに手をかけた瞬間、 「――…どうして?」 確かに聞こえた。 この錆び付いた薄いドアの向こう側から 彼女らしき女の声が。 心臓が早鐘を打った。 どこか、悲しそうな。 ……切なそうな。 甘い余韻を残す透き通った声。 今まで彼女の声など数えるほどしか聞いたことはないが その声を聞いてもこんなに胸が苦しくなることなんてなかったのに。 それは自分の胸にすでに咲いている新たな感情を確定的にする症状。 否定要素を打ち消す症状だった。