「ありがとうございます…」
漸くのことで橋に引き上げられ女は、すっかり紫色になった唇をわなわなさせながら、二人の命の恩人に礼を言った。
「あの辺の土手は湿地帯だからな、油断していると、さっきのようにズルズル滑って川に落ちてしまうんだ」
「それにしても、助かってよかった」
「はい…」
「このロープのお陰だ」
男は命綱となったロープを再び拾い上げると、敬意のこもった眼差しを向けた。
「命綱さまさま、だな」
「はい、まったく…」
先程の溺れかけた恐怖を思い出したのか、女は両肩を抱いて俯き、ブルっと震えた、その時だった。
男は女の背後にまわると、いきなりロープを女の首に巻きつけた。
そして、一気に絞め上げた。
「!」
女はカッと目を見開き、首に食い込む“命綱”を両手で掴んだまま、橋板にドウッと倒れ、そのまま動かなくなった。
「ったく、ふてェ女だ」
様子を黙って見ていたもう一人の男が、忌々しげに吐き捨てた。
「まったくだ…」
首を絞めた男は、女の脇腹を蹴り上げ、ピクリともしないのを見て本当に死んだことを確かめると、「まさかこの女が、スパイだったとはな…」
と言って、ロープを足元に放り捨てた。