───…
風を切る音が耳に走る。
景色がどんどん移り変わってゆく。
自分の呼吸音と、リズム良く鳴る心臓のドラム。
自転車を軽快にこぐ俺。ニケツしているにも関わらず、疲れはない。体が軽い。これならいつまでも足を動かせる。
高鳴る心臓の音は、疲れのせいではない。高めているのは後ろに乗せている人だ。この人とならいつまでも、どこまでもこいでゆける。
──でも誰だ?
顔が見えない。
「もっともっと!」
顔の見えない人が言う。
俺は立ちながらさらに強くペダルを踏み込む。
…その人の笑顔のために。
丘のてっぺんで、俺はようやくペダルから足を離す。
夕焼けが俺達を優しく包み込む。
俺はその人の顔が見たくて、ゆっくりと振り返る。
「なぁに?歩人?」
その顔は…
冴島だった