冴島の気持ちが、少しでも愛美に伝わればいい。
それだけでも十分俺達がやってきた事は意味のあるものになる。
「……冴島は意味もなく暴力を振るうような奴じゃないよ。前に俺と葉が殴られた事あったろ?あれだって冴島がお前に良いところ見せようと思って…」
「……やめてよ…」
か細く、今にも消えそうな声で、愛美は呟いた。
「え……?」
「…もうやめて」
そう言うと愛美は身を翻し、校舎へと戻ろうとした。
「ちょ…ちょっと待てって!」
俺は慌てて呼び止める。
「……今までずっと黙ってきて、しかもこんな同好会で活動してきてた事は本当に悪いと思ってる。でも…冴島は本気でお前の事想って…──」
「やめてってば!」
愛美は背中を向けたまま叫んだ。
俺は愛美に驚き、それ以上なにも言えなくなった。
「──…わかったよ。歩人の言いたい事は……」
愛美は静かにそう言った。
「……じゃあね…」
…校舎内へと消えていく愛美を、俺は呼び止める事ができなかった。
地面を叩く雨の音が、妙にうるさかった。

