気が付くと景色はにじみ、僕の頬を涙が伝っていた。暖かいそれを、冬の夜風が一瞬で冷たくしていく。


それでもとめどなく、とめどなく涙は溢れる。次から次へ、流れては落ちていく。


吸いかけの煙草の灯りはもう、灰に変わってしまっていた。


「ああ。」


やけに寒いと思ったら雪が降ってきていたんだ。コートの肩はいつの間にか白く染まっていた。


「そうだった。」


より鮮明に思い出は蘇る。あの時も雪が降っていたんだ。


「ねぇ。雪が降ってきたよ。」


隣に問いかける。答えはかえらないけれど。


「綺麗だね。本当に、綺麗だ。」


僕は空を見上げる。


「ねぇ僕は君が好きなんだ。大好きなんだ。」


声は雪に吸い込まれ、夜風に飛ばされていった。


君に届け。君に届け。


「ずっと。ずっとね。」


僕はポケットに入れたライターをぎゅっと握りしめた。君の手の温もりを思って。