新鮮な空気を吸おうと、
外へ出たがダメだった。

深く息を吸うことができない。

建物の裏手にまわる。

すべてが変わってしまっていると思っていたが、

そうではなかった。

庭の一角に

見慣れた景色が残っていた。

二人ならんで腰掛けたベンチと、

小さな池。

ゆっくりと歩み寄る。

池にはたくさんのカメがいた。

大きいもの

小さいもの

泳いでいるもの

陸場で甲羅干しをしているもの

その中の一匹が、

やたらとこちらを見つめている。

じっと見つめた。

「ヤマト、なのか?」

僕があの夏

連れ帰った"ヤマト"なのか?

「亀は万年」ともいう。

ヤマトが三十年後の今も生きていてもおかしくないのかもしれない。

さらに一匹

甲羅の長さが30センチはあろうかという大きなカメが近づいてきた。

ぼやけていく視界とともに、

千夏の声が心によみがえって来た。

--そのうちこの池では狭いくらいにカメでいっぱいになるかも。ヤマトとヒメの家族で--