「千夏です。大宮千夏」
しっかりと僕の瞳を捉えて彼女が言う。
「私のほうこそ、初対面の方にすみませんでした」
頭をさげる。

再び頭をあげた時の笑顔に僕はもうやられていた。

彼女は、大宮先輩の妹でも大宮教授の娘でもなく、大宮千夏という一人の女性として僕の中にインプットされた。

「では、千夏さん、と呼んでいいのかな?」

「奈良さんが私に敬語を使うのをやめたら、そう呼ぶのを許します」

「わかりました・・・・いや、わかった」

「では、堅苦しいのは無し。二人の時は」

「二人の時は?」

「さあ、我が大宮家に到着です。奈良先輩」
住宅街を案内されながら当初の目的を忘れかけていた。

表札に”大宮”とある邸宅は、大豪邸とは呼べないかもしれないが周りの住宅の中では比較的大きな家だった。