--彼女と初めて会った日・・・
バス停に迎えにきてくれた彼女。

「行きましょうか」
促されて歩きだす。
半歩先に行きながら彼女が話し掛けてくる。

「奈良さんは、何を研究なさっているのですか?」

「まだ、研究というほどのことはしていません。入学したばかりなので基礎の勉強をしているところです」

「分野は兄と同じなんですよね?」
「そうです。大変お世話になっています。今回もお言葉にあまえてしまいまして・・・」
「そうですか・・・」

ホラ、と言いながら彼女は手にした参考書の背表紙を見せてきた。
彼女の手にある参考書の背表紙には、

僕の大学の名があった。

「私も兄と・・・」
一度地面に視線を落とし、

次に少しはにかんだ表情で、

「そして、奈良さんと・・・」

「同じ道を志望しています」

はっきりと宣言するように言った。

驚いた。

女性でこの道を志す人はそう多くはいない。

「来年受験ですか?」

「いいえ。まだ高校2年生です。今からでも間に合うかどうか・・・。受験の難関校ですものね」

「あなたなら大丈夫でしょう」

「あら。私のこと何も知らないのに」

「すみません。大宮先輩も宇宙探査局への入局が、ほぼ内定しているそうですし、何よりお父様がこの分野の第一人者の大宮教授じゃないですか。だから、あなたもきっと優秀なのだろうと・・・」

「私自身には関係のないことです」
内容はきつかったが言葉は柔らかかった。

僕はこのはっきり意志を持った女性に惹かれ始めていた。

「すみません。軽はずみなことを言って。確かに僕は初めて会ったあなたのことを何も知らないです」