そんな中、
彼が指文字を教えてくれた。
こうして指を動かすだけで、
言葉以上のコミュニケーションが
両者の間に成立するんだよ、と
彼は笑った。

なぜか、私がすぐに覚えられたのは、
彼の名前を構成する、
7つの文字だけだった。
“好きな人の名前を綴ってごらん”
そう言われて、
それだけしかできない私は、
していいものかどうか悩んで、
指を動かすことができなかった。

風が急に強くなって、
彼は、寒いだろ、と
私を抱き寄せて。
意外な展開に驚いた私に、
そっと口づけをした。