現実(リアル)-大切な思い出-

俺とは対照的に、彗は随分と感情的な人間だった。

思ったことが素直に現れていて、ああいった人間を“人間らしい”と言うのかもしれない。

悩みなんてなさそうなタイプだな‥ふと、そう思った。

どうでもいいはずなのに、そんなことを考えていた。



「返せよっ!」


渡り廊下を歩いていたとき、叫びにも似たそんな声が聞こえてきた。


普段なら絶対、気に留めない。

だが、聞き覚えのあるその声が妙に気になって、俺は普段と真逆の行動を起こしていた。


近付くにつれ、緊迫した空気を感じる。

俺は堂々と姿を見せることはせず、こっそりと様子を窺った。

やはり彗だ。

その彗を囲むように立っているのは、3人の男子生徒。


「返せって言ってんだろ!?」