「勝手にやったことよ」


「もしそうだとしても、郷花のおかげで、俺にも生きる目標ができたから」


「目標?」


不思議そうに首を傾げる郷花を見て、俺は笑いながら頷いた。


「朱月が俺のために、何かを犠牲にしようとしてることくらい‥俺にも判ってるんだ」


「…」


郷花は、そっと目を伏せた。

その仕草で判る。

郷花は、それが何か知っているのだろう。

俺の知らない何かを…。


しかし俺はあえて、それを追及することはしなかった。


「けど、それには気付かないフリを続けるつもり。それが、俺にできる精一杯の“優しさ”だって思うから」


「水月…」


「それに、知っちゃったら、俺は絶対朱月をアメリカに連れて行けなくなるだろうから。朱月が何よりも俺を選んでくれたのだとしたら、俺は全力でそれに応えるつもり。そして‥自分のできる範囲で、朱月にそのお礼をする」


「お礼?」


「ライブでの朱月の演奏を聴いて、気付いたんだ。朱月にとってギターは、演奏は、特別なんだって。だから、朱月がそれを続けられる場所を、俺が作ってみせる」


「どういうこと?」


「いずれ判るよ」

俺は、ニッコリと微笑んだ。