現実(リアル)-大切な思い出-

「はっ、何で日暮がこんなとこに居んの?」


涙を乱暴に拭いながら、彗は笑った。

その笑いは、初めて声を掛けられたときの表情と同じだったのに、今の俺の目には、痛々しく映ってしまった。


「声が、聞こえた」


「声?それでわざわざ?」


「気になった…」


彗は、驚いたように目を丸くした。

そして、嬉しそうに笑った。


「優しいんだな」


「優しい?」


そんなこと、初めて言われた。

内心動揺している俺に気付いたのか、彗はまた笑った。


「だって、気になって来てくれたんだろ?んで、心配になったから、出てきてくれた」


「…」


俺が返事に困っていると、彗はフーっと息を吐きながら座り込んだ。

俺は顔の傷が少し気になっていたのだが、本人はそのことを全く気にしていないようだった。