現実(リアル)-大切な思い出-

「次は、俺がお前を殴ってやる」


「好きにすれば?どうせお前には、それしか能がないんだし」


「何様だよ、お前」

男は低い声で呟き、皺の寄った紙を彗に向かって投げ付けた。

「お前だって、こんなの作ることしか能がねぇくせして‥曲を作ってるだと?アレンジしかできねぇくせにっ!」


男はそう言い残すと、彗から離れ、俺を通り越して行った。

2人も、その男を追い掛けるように去って行った。


男達の姿が見えなくなると、俺は漸く、彗に目を向けることができた。


驚いた。

壁に縋った状態で立っている彗の目からは、涙が零れて出ている。

殴られても泣かなかったのに、何故今、泣いているのか…。

俺は、驚きと共に戸惑った。