現実(リアル)-大切な思い出-

隣の男が、彗両肩を掴み、壁に押し付けた。

鈍い音がしたというのに、彗は痛みに堪えている様子もなかった。


「お前、自分がどんな噂されてるか知らねぇんだろ?ただ“可愛い”って言われてるだけじゃねぇんだぜ?」


揶揄するように、男が笑みを見せる。

笑い声が聞こえてきそうな、そんな笑みだった。


俺は、彗の噂について詳しくは知らない。

女子達が「可愛い」と言っているのは何度か耳にしたが、興味がなかったために、それ以上のことは聞いていない。


「‥だったら何だよ?お前らみたいなくだらない連中が流した噂に、いちいち構ってられっかよ」

そう言って、彗は男の手を払った。

「こんなことするくらいしか、能のないお前らに同情するよ」


「マジ調子乗んなよ!?」


男が、彗の頬を殴った。

口元に見える赤いものは、間違いなく血だろう。

それを見た瞬間、俺は隠していた姿を晒していた。

それは、殆ど無意識の行動だった。